中途採用と新入社員は違うと思ったほうがいい。

以下のエントリーを読んで思ったことをつらつらと書こうかと思う。

僕が大学で講義していて必ずといっていいほど聞かれる質問に、どうすればそこに就職できますか、というのがある。新卒採用は数百倍、数千倍という倍率らしいので無責任なアドバイスもできず「倍率が2桁超えると宝くじのようなものだ。だから最初から人気企業を目指すより、同じ会社の中途採用枠をよく調べ、数年後にどういったスキルを身につければ転職できるのかというスキル目標を立てるといい。そして最初は、そのスキルを身につけるために必要な経験を積ませてくれて、比較的地味で小規模だけど儲かって人材開発に投資している会社を狙うといい。新卒より中途の方が2桁は倍率が低いので、ずっと確実だ」とアドバイスしている。

僕の記事は就活のアドバイスじゃないよ - 雑種路線でいこう

確かに入社するだけでいいのであれば、この通り。新入社員として入るよりも中途社員で入るほうが余程簡単だということには異論は全く無い。ただし、新入社員ではいるのと中途社員で入るのでは入る意味が全く違う。

これからの文章は

  • 入りたいと考えている会社が大手企業であり、そのスキルを得るために入る会社が中小企業である。
  • 職種はコンピュータ関係である。

という前提で記述を行う。


社員教育の違い

中小企業では社員教育をあまり出来ない。これは色々な会社をみた中での僕の結論である。中小企業では新入社員研修を行うだけの余力が無いため、どうしても新入社員を他の社員と一緒に外に出し、OJTという肩書きで仕事をしながら勉強させるという方法を取ってしまう。これはこれで確かにスキルはあがるのだが、仕事に追われて勉強を行うためどうしても基礎が身につきにくい。また、しっかりと教えてくれるような社員と同じメンバーになることが出来れば幸運だが、全く仕事を教えてくれない人もいれば、教えてやる気がある人だったとしても教え方が下手な人もいる。この可能性があるかぎり、どうしても自学と変わらない勉強方法を取るしかない可能性が出てきてしまう。この点大企業ではきちんとした社員教育を行うだけの余力がある。また、教える講師もきちんとした専門の講師を雇っているため、余程外れを引かない限りきちんと教えてくれる。どちらが伸びるのかは教わる人にもよるだろうが、同じ時間・同じやる気で勉強をしたのだとすれば、きちんとした教育を受けたほうが力が身につくと僕は思っている。

昇進の違い

僕が知っている企業には、いまだに中途社員では幹部社員になれないという企業がある。その会社というのは名前は伏せるが日本の五本の指に入るほどの大企業だ。中途社員では幹部社員になれないという状況は少しずつ減っていくだろうし、そういう企業では生き残れない時代がそのうちやってくると思うのだが、それがどれくらい近い未来に起こるのかは僕には予想できない。現状としてそういう企業があるのは事実で、そういう会社に幹部社員を目指して中途社員として入った人間は新入社員として入社していれば感じることの無かった大きな壁が立ちはだかってしまう。これを避けるためにはどうしても新入社員として入社する必要があるという事実がある。

選べる職の違い

SEという業務は非常に広い。一口にSEと言ってもソフト屋とハード屋とインフラ屋では全くやっていることが違う。インフラを2年だけ仕事やったことがある人間がソフト屋で10年仕事をしている人間よりもインフラの知識があるというのはざらにあることだ。それぐらい必要とするスキルが違う。

中小企業ではどうしても現状でやれる作業の幅が狭い。手広くやっている会社だとしても、ソフト屋の仕事がやりたいからといって、それに準じた仕事が出来るわけではない。そこは現状の仕事量、社員の比率などなどを考えて会社として違う仕事をやってもらうという苦渋の選択をせざるおえない時がどうしても発生する。それがすぐ終わる作業であればいいが、下手にそのプロジェクトの中心人物になってしまおうものならお客さんの頼みを断りきれずにやりたくも無い作業をずるずるとやり続けるということもある。しかし、大企業では確かに意見は通りにくいが会社の事情でその仕事しかできないということはあまり無い。全く無いとは言い切れないが、少なくとも中小企業に比べれば人の移動というのは簡単に行うことができる。また、やりたかった職業というのが全く思っていたものと違った場合も、会社を変わるという選択をせずに同じ会社内で違う職を行うという選択肢も出てくる。

まとめ

このようにつらつらと書いてみると中小企業に入社するよりも大企業に入社したほうがいいと書いているようなエントリーに読み取れてしまうが、僕としてはそんなつもりは全く無い。中小企業には大企業に無い利点はいくらでもある。個人の責任の重さや意見の通りやすさ、会社との連帯感などなど中小企業で無いと体験できないようなことはいくらでもある。

ただ、「新入社員で入社する」ということと「中途社員で入社する」ということではその会社で働くことが出来るという結果は一緒であるが、得られるものは全く違う。このことだけは言い切れる。

大企業に落ちても中小企業に入ればいいんだから、入社試験だけでも受けておいたほうが良いというのが僕の意見だ。そういう考えの人が多いから倍率が高くなるのだろうが、僕はそうしたほうがいいと思う。何度も言うように中途社員で入社するのと新入社員で入社するのでは全く意味が違うのだから。